はじめに
韓国市場への進出において、Coupang(クーパン)は避けて通れないプラットフォームです。
2024年末時点で2,200万人以上のアクティブユーザーを抱え、韓国の約70%の人口が物流センターから10分圏内に住むという驚異的な配送網を持つCoupangは、まさに「韓国のAmazon」と呼ばれる存在になりました。

しかし、多くの日本企業がCoupangでの成功を目指す中、広告費を投じても思うように売上が伸びないという課題に直面しています。その最大の理由は、広告とレビューという2つの重要な要素を分離して考えてしまっていることにあります。
本記事では、Coupangで成功するための広告戦略とレビュー施策の相乗効果、そして具体的なKPI設計について、実践的な視点から解説します。
Coupang広告の基本構造と種類
Coupang広告の特性
Coupangの広告システムは、PPC(Pay Per Click)方式を採用しています。
つまり、広告が表示されるだけでは課金されず、ユーザーがクリックした時点で初めて費用が発生する仕組みです。これは広告主にとって効率的な予算運用を可能にする一方で、クリック後の購買転換率を高めることが極めて重要になることを意味します。
Coupangのプラットフォーム全体を見渡すと、ほぼすべてのページに広告枠が存在します。検索結果ページのバナー、カテゴリーページの商品リスティング、さらには注文完了ページにまで広告が配置されており、ユーザーの購買行動のあらゆる接点で商品露出の機会が用意されています。

主要な広告タイプ
Coupangには大きく分けて7つの広告タイプが存在しますが、日本企業が実際に活用すべき主要なものは以下の4つです。
AIスマート広告
AIスマート広告は、Coupangのアルゴリズムがセラーの全商品の中から効率の高い商品を自動的に選択し、目標広告収益率(ROAS)に基づいてキーワードと入札価格を最適化する仕組みです。広告運用の経験が浅い事業者や、運用工数を削減したい企業に適しています。
この広告タイプの最大の利点は、Coupangの膨大なデータに基づいた機械学習により、人間では発見しにくい効果的なキーワードや配信タイミングを自動的に見つけ出してくれる点にあります。一方で、どの商品がどのような理由で選ばれているのかが不透明になりやすいため、定期的なパフォーマンスレビューが必須です。
売上最適化広告
売上最適化広告では、セラーが広告対象の商品を直接選択し、目標ROASを設定します。その後、Coupangのシステムがスマートターゲティングを適用し、購買可能性の高いキーワードと自動的にマッチングします。既に販売実績があり、特定の商品に注力したい場合に効果的です。
この広告タイプは、ベストセラー商品や利益率の高い商品に集中投資する戦略に適しています。商品選択の自由度を持ちながら、キーワード最適化の手間を省けるため、ある程度の販売データが蓄積された段階で導入すると最も効果を発揮します。
手動成果型広告
手動成果型広告は、商品選択、キーワード設定、入札価格のすべてをセラーが管理するタイプです。広告運用の経験があり、キーワード構造や入札価格の調整を細かくコントロールしたい事業者に向いています。
この方式の強みは、競合分析に基づいた戦略的なキーワード選定や、時間帯別・曜日別の入札価格調整など、高度な運用施策が実行できる点です。ただし、運用工数が大きくなるため、専任の広告運用担当者を置ける体制が望ましいでしょう。
新規顧客ターゲティング広告
2024年にベータ版としてリリースされた新規顧客ターゲティング広告は、過去1年間にセラーの商品を購入したことがない顧客のみをターゲットとします。新規顧客獲得を重視する成長フェーズのブランドに適した広告タイプです。
この広告の戦略的価値は、既存顧客への広告費用を抑えながら、市場シェアの拡大に集中できる点にあります。ただし、新規顧客は既存顧客に比べて購買ハードルが高いため、商品ページの完成度やレビュー数が成果に大きく影響します。
広告掲載枠の理解
Coupangにおける広告は、以下の主要な場所に掲載されます。
メインページ広告
- 本日のスマートショッピング
- 人気商品セクション
- カテゴリー別おすすめ商品
- ラインバナー
検索結果ページ広告
- 上部、中部、下部バナー
- 比較用の類似商品
- 関連おすすめ商品
その他の掲載場所
- カテゴリーページ
- ショッピングカートページ
- 注文完了ページ
これらの掲載場所の中でも、検索結果ページの広告は購買意欲の高いユーザーに直接リーチできるため、
最も費用対効果が高い傾向にあります。
広告費を投じても売上が伸びない理由
アルゴリズムが重視する真の指標
多くのセラーが陥る最大の誤解は、「広告費を増やせば売上が伸びる」という単純な発想です。しかし、Coupangのアルゴリズムは広告費の投入額ではなく、以下の複合的な指標で広告効率を判断しています。
Coupangが評価する主要指標
- クリック後の商品ページ滞在時間
- 購買転換率
- カート追加率
- レビュー数と評価スコア
これらの指標が低い状態で広告費だけを増やしても、Coupangのアルゴリズムは「非効率な広告」と判断し、広告単価を引き上げる結果となります。つまり、より多くの費用を支払っても、露出や成果は比例して増加しないという悪循環に陥るのです。
商品指数(Product Score)の重要性
Coupangでは、各商品に対して「商品指数」という総合的な評価スコアを付与しています。この指数は、商品の露出順位や広告効率に直接影響を与える極めて重要な要素です。
商品指数を構成する主要要素は以下の通りです。
転換率への影響
レビュー数が多い商品ほど、購入を検討するユーザーに安心感を与え、購買決定を後押しします。特に韓国市場では、消費者の80~90%以上がレビューを参考に購買意思決定を行うという調査結果があります。
信頼性の証明
テキストレビューに加えて写真や動画が含まれるレビューは、商品ページの滞在時間を大幅に延ばします。滞在時間の長さは、Coupangアルゴリズムにとって「この商品は顧客の関心が高い」というシグナルとなります。
間接的な露出強化
質の高いレビューは、「お気に入り登録」や「再訪問」を促進し、これらの行動もまた商品指数の向上に寄与します。
単純にレビュー数を増やすだけでは不十分です。実際の購入者による具体的な使用感、写真や動画を含む充実したコンテンツ、そしてレビュー投稿後の継続的な購買反応など、質の高いレビューの蓄積が商品指数向上の鍵となります。
レビュー施策の戦略的アプローチ
合法的なレビュー獲得の3つの方法
Coupangのアルゴリズムは年々精緻化しており、不正なレビュー操作は即座に検知され、最悪の場合アカウント停止という重大なペナルティを受けます。そのため、合法的かつ効果的なレビュー獲得戦略が不可欠です。
自社レビューイベントの実施
最も基本的かつ効果的な方法は、Coupangで商品を購入した顧客を対象としたレビューイベントの実施です。この施策には2つの主要なアプローチがあります。
1つ目は、商品詳細ページへのイベント告知です。「写真レビュー投稿で次回購入時20%オフクーポン進呈」といった文言を商品ページ上部に目立つように配置することで、購入前から顧客にレビュー投稿のインセンティブを認識させることができます。これは購入転換率の向上にも寄与します。
2つ目は、商品配送時のイベント案内カード同梱です。顧客が商品を受け取った直後は、商品への印象が最も鮮明な時期であり、レビュー投稿率を最大化できるタイミングです。カードにQRコードを印刷してレビュー投稿ページへ直接誘導する工夫も効果的です。
報酬は自社ECサイトで使える割引クーポンやポイントとすることで、リピート購入の促進にもつながります。
体験団とインフルエンサーマーケティングの活用
商品を無償提供する代わりにレビューを獲得する体験団施策は、新商品立ち上げ時や初期レビュー数が不足している段階で特に有効です。
インスタグラムやブログで一定のフォロワーを持つマイクロインフルエンサーを体験団として起用することで、Coupangでのレビュー投稿だけでなく、SNSでの商品露出も同時に獲得できます。直接DMで協賛提案を送る方法もありますが、応答率が低く時間がかかるため、専門プラットフォームサービスの利用が効率的です。
重要なのは、過度に肯定的なレビューを強要しないことです。韓国の消費者は辛口で率直な意見に高い信頼性を感じる傾向があり、多少の改善点を含むレビューの方が、かえって商品の真実性を証明する結果となります。
商品品質と顧客満足度の徹底追求
最も根本的でありながら最も強力なレビュー獲得戦略は、顧客満足度を極限まで高めることです。商品に心から満足した顧客は、依頼されなくても自発的に詳細なレビューを投稿してくれます。
商品の価値向上には、品質管理の徹底、迅速で丁寧なカスタマーサポート、そして開封体験を高める丁寧な梱包が含まれます。特に韓国市場では、清潔で美しいパッケージングと手書きのメッセージカードが顧客の心に深く残り、レビュー投稿の動機付けとなることが多いです。
Coupangが評価する高品質レビューの条件
Coupangのアルゴリズムは、単なるレビュー数ではなく、レビューの質を重視しています。
高評価を受けるレビューの条件は以下の通りです。
写真・動画を含むレビュー
ビジュアルコンテンツを含むレビューは、テキストのみのレビューよりも高い加点を受けます。レビューイベントを実施する際は、写真レビューに対して追加の報酬を設定することで、質の高いレビューを効率的に集めることができます。
長文の詳細レビュー
具体的な使用感や改善点を含む長文レビューも、Coupangから高く評価されます。ただし、韓国では日本に比べて短い文章が好まれる傾向があるため、300~500文字程度の具体的な内容が理想的です。
最近投稿されたレビュー
レビューの鮮度も重要な要素です。過去1週間以内に投稿された新しいレビューは、商品の現在の人気度を示すシグナルとして、アルゴリズムに高く評価されます。継続的なレビュー獲得施策の実施が重要な理由がここにあります。
広告とレビューの相乗効果を生む4段階設計

フェーズ1:商品ページ最適化
広告を開始する前に、商品ページの完成度を高めることが大前提です。どれほど効果的な広告でユーザーを誘導しても、商品ページの滞在時間が短ければ、広告効率は急速に悪化します。
滞在時間を延ばす要素
- 高解像度の商品画像(最低5枚以上)
- 使用シーンを想起させるライフスタイル画像
- 商品の特徴を視覚的に説明するインフォグラフィック
- 競合商品との比較表
- よくある質問への回答セクション
これらの要素を充実させることで、ユーザーの商品ページ滞在時間を延ばし、Coupangアルゴリズムに「この商品は顧客の関心が高い」というシグナルを送ることができます。
フェーズ2:初期レビュー蓄積
商品ページが整った段階で、まず最低20~30件のレビューを蓄積することを目標とします。この段階では、前述のレビューイベントや体験団施策を集中的に実施します。
初期レビューの重要性は、広告開始後の転換率に直結する点にあります。レビューが全くない、あるいは数件しかない状態で広告を開始すると、クリック数は獲得できても購入につながらず、広告費が無駄になります。
また、この段階で獲得したレビューの内容を分析し、顧客が特に評価しているポイントや改善を求めている点を把握することで、次のフェーズでの広告クリエイティブに活用できます。
フェーズ3:小規模広告テスト開始
初期レビューが蓄積された段階で、少額予算での広告テストを開始します。推奨される初期予算は、1広告あたり日予算10,000円、月間予算30万円程度です。
この段階での目的は、売上最大化ではなくデータ収集です。以下の指標を重点的に観察します。
主要観察指標
- クリック率(CTR)
- クリック単価(CPC)
- 商品ページ到達後の直帰率
- 平均滞在時間
- カート追加率
- 購買転換率
これらのデータを2~4週間収集し、商品ごとの広告パフォーマンスを分類します。高露出・高クリックの商品、高転換率の商品、低効率の商品といったセグメントを明確にすることで、次のフェーズでの戦略的予算配分が可能になります。
フェーズ4:データドリブンな予算最適化
テストフェーズで収集したデータに基づき、商品ごとに最適な広告戦略を実行します。
高露出・高クリック商品への対応
すでに市場の関心が高いこれらの商品には、広告予算を積極的に投入し、露出を最大化します。AIスマート広告や売上最適化広告を活用し、Coupangのアルゴリズムに商品の露出機会を委ねることで、効率的なスケールが可能です。
高転換率商品への対応
露出は多くないものの転換率が高い商品は、ターゲットを絞り込んだ広告配信が効果的です。手動成果型広告を使用し、高い購買意欲を持つユーザーが検索するロングテールキーワードに集中投資します。
低効率商品への対応
露出は多いもののクリック率が低い商品は、商品ページの改善が必要です。メイン画像の変更、価格の見直し、無料配送オプションの追加、レビュー数のさらなる増加などを実施します。改善後、再度広告テストを行い効果を検証します。
この4段階のサイクルを継続的に回すことで、広告とレビューの相乗効果を最大化し、持続的な売上成長を実現できます。
KPI設計と目標ROAS設定

ROASの適切な設定方法
ROAS(Return On Advertising Spend)は、広告費対効果を示す最も重要な指標です。計算式は「広告経由の売上 ÷ 広告費 × 100」で表され、例えば10,000円の広告費で50,000円の売上が発生した場合、ROASは500%となります。
しかし、ROASの目標設定には慎重なバランス感覚が必要です。
ROASを高く設定しすぎた場合のリスク
目標ROASを過度に高く設定すると、Coupangのアルゴリズムは購買可能性が極めて高い限定的な状況でのみ広告を配信します。その結果、広告露出の機会そのものが大幅に減少し、新規顧客獲得のチャンスを逃してしまいます。
ROASを低く設定しすぎた場合のリスク
逆に目標ROASを低く設定すると、広告は積極的に配信されますが、広告費が売上を上回る赤字状態に陥る可能性があります。特に利益率の低い商品では、売れば売るほど損失が拡大する事態になりかねません。
Coupangは目標ROASとして350%を標準値として推奨しています。初めて広告を開始する場合は、この数値からスタートし、2~4週間の実績データを分析した上で、自社の利益構造に合わせて調整することが推奨されます。
段階別KPI設計の実例
広告運用の成熟度に応じて、追うべきKPIは変化します。以下、3つのフェーズごとのKPI設計例を示します。
立ち上げフェーズ(最初の1~2ヶ月)
この段階では、売上最大化よりもデータ収集と市場理解を優先します。
主要KPI:
- レビュー数:月間20件以上の新規レビュー獲得
- 商品ページ滞在時間:平均60秒以上
- 広告クリック率(CTR):1.5%以上
- レビュー平均評価:4.3以上を維持
このフェーズでは、ROASが目標値を下回ることも許容し、市場での商品の受容度を測定することに重点を置きます。
成長フェーズ(3~6ヶ月目)
データが蓄積され、効果的な広告パターンが見えてきた段階では、効率性の向上にフォーカスします。
主要KPI:
- ROAS:350%以上
- 購買転換率:2.0%以上
- 月間新規レビュー:30件以上
- リピート購入率:15%以上
この段階では、低効率な商品や広告グループを整理し、高効率な商品への予算集中を進めます。
最適化フェーズ(7ヶ月目以降)
安定的な売上基盤が確立された段階では、収益性の最大化を目指します。
主要KPI:
- ROAS:400%以上
- 広告経由売上比率:全体売上の30%以上
- 顧客生涯価値(LTV):初回購入額の3倍以上
- ブランド指名検索比率:20%以上
このフェーズでは、広告だけでなく、オーガニック流入の増加や既存顧客のリピート率向上など、総合的なマーケティング効果を追求します。
実践的な広告運用チェックリスト
Coupang広告で成果を出すためには、以下のチェックリストを定期的に確認し、PDCAサイクルを回すことが重要です。
週次チェック項目
- 各広告グループのCTR推移
- クリック単価の変動
- 在庫状況の確認と補充
- 新規レビューの内容確認と返信
- 競合商品の価格・プロモーション動向
月次チェック項目
- 商品別ROAS分析
- 広告予算配分の見直し
- レビュー数と平均評価の推移
- カスタマーサポート対応の質分析
- 新商品投入の検討
四半期チェック項目
- 年間売上計画との進捗比較
- ブランド認知度の変化測定
- 顧客セグメント別の購買パターン分析
- 新規広告タイプのテスト計画
- 競合との市場シェア比較
これらのチェックリストを愚直に実行することで、広告運用の精度は確実に向上します。
おわりに
韓国Coupang市場での成功は、広告とレビューという2つの要素を単独で考えるのではなく、相互に補完し合う統合的な戦略として設計することで初めて実現します。
広告は商品への入口を作り、レビューは購買の最後の一押しとなります。質の高いレビューは商品指数を向上させ、広告効率を改善します。そして効率的な広告は新規顧客を呼び込み、新たなレビューを生み出します。この好循環を構築することが、持続的な成長の鍵となります。
本記事で紹介した4段階の戦略設計、適切なKPI設定、そして継続的な改善サイクルを実践することで、韓国市場でのD2Cビジネスの成功確率は大きく高まるでしょう。広告費の投入を始める前に、まずは商品ページの完成度とレビュー基盤の構築に注力してください。その上で、データに基づいた戦略的な広告運用を展開することで、投資対効果の高い韓国市場進出が実現できるはずです。
出典一覧