2026年に向けた韓国小売市場の構造変化|百貨店からライブコマースまで全チャネル最新動向

2026年に向けて韓国小売市場は”デジタル×リアル”を前提としたマルチチャネル時代に突入しました。オフラインの百貨店が体験価値と高級化路線で顧客を呼び戻す一方、クーパンを筆頭とするECや、急成長中のライブコマースが勢力図を書き換えています。

さらに政府のデジタル化政策やAI物流への投資が市場構造変化を加速させ、日本企業にとっても競争環境は大きく変わりつつあります。本稿では日本企業のマーケティング担当者が現地戦略を立てる際に不可欠な最新動向と実践的な示唆を6つの視点から整理します。

百貨店・ショッピングモール:転換点を迎えるオフライン王国

売上動向と客層変化

韓国大手百貨店5社(ロッテ、新世界、現代、ギャラリア、AK)68店舗の2024年の年間売上高は39兆8,002億ウォンで、前年比0.9%増加しました。しかし、この微増の背景には①オンラインへの需要流出②若年層の消費行動変化があります。首都圏旗艦店では1人当たり客単価が前年比18%増と伸長した一方、地方店は横ばいにとどまり、地域格差が鮮明になっています。

体験型への再投資

百貨店各社はフラッグシップにフードホール・Kカルチャー体験ブース・メタバース体験ゾーンを導入し、オンライン会員向けに限定イベントを開催。OMO化によりリピート率向上を図っています。特に現代百貨店の「THE HYUNDAI SEOUL」では、売り場の相当部分をイベント・展示・ポップアップ専用に割り当て、体験型店舗として注目を集めています。

EC・モバイルショッピング:年平均7.9%成長を支えるロジスティクス革新

市場規模と成長率

韓国のEC市場規模は2024年に803億5,000万ドルに達し、2028年には年平均成長率4.47%で継続的な拡大が見込まれています。モバイル取引が70%超を占め、クーパンは「ロケット配送」サービスで韓国EC市場をリードしています。

主要プレーヤー別動向(2024年)

企業 主力サービス 差別化要因
Coupang ロケット配送 早朝・翌日配送網、WOW会員
Naver Shopping スマートストア 検索連動広告、N Payエコシステム
Gmarket/Auction マーケットプレイス 長期会員層、C2C強み
SSG.com 百貨店連携 プレミアム食材、百貨店在庫活用
11st Amazon連携 海外商品ラインナップ

韓国ハナ証券の推計では、直近の韓国ネット通販シェアはクーパンの22%に対し、ネイバーが20%と肉薄しており、競争が激化しています。

日本企業への示唆

  • 公式ショップを「クーパンマーケットプレイス+ネイバースマートストア」二面展開し、配送対応SKUを厳選
  • 配送リードタイムを韓国基準(当日〜翌日)に合わせ、ロジスティクス最適化を図る
  • N Pay広告やレビュー施策で検索露出を最大化し、モバイル購買ファネルを強化

ライブコマース:コンバージョン率20%の次世代販売チャネル

韓国インターネット振興院によると、従来のEコマースのコンバージョン率が0.37%であるのに対して、ライブコマースのコンバージョン率は20%に達しています。市場規模は急速に拡大しており、2028年にはオンライン売上の重要な一角を担うと予測されています。

Naver LIVE、Kakao Shopping LIVEに加え、スタートアップ「Grip」は月間ユーザー170万人を獲得し、2024年にKakaoが買収。配信者(Griper)の多くがMZ世代で、従来ECよりも高い購入単価を実現しています。

消費者行動:MZ世代とラグジュアリー志向

ミレニアル・Z世代は「自己投資・体験・高級品」への支出意欲が高く、Morgan Stanleyの調査によると1人あたり高級品支出は世界最高水準です。国民銀行カード決済データによれば、MZ世代の海外ブランド決済額は2020年比で+46%増加しており、”ブランディング消費”が拡大しています。

また、環境配慮型商品への購入意向も全世代平均より高く、サステナブル訴求も重要な要素となっています。百貨店はこの層を囲い込むため、VIPラウンジとライブ配信スタジオを併設し、OMOイベントでSNS拡散を促進しています。

政策・テクノロジーが描く2026年の市場地図

韓国産業通商資源部は、オンライン販売の拡大を背景に「リテール4.0戦略」を推進しています。政府はAI物流・デジタル税制優遇をセットにした政策により、中小企業のライブコマース進出や、5G MEC(Multi-access Edge Computing)を活用した超低遅延動画配信を支援しています。

さらに、脱炭素社会へ向けた「スマート物流クレジット」制度により、温室効果ガス削減量を取引可能なクレジットとして認定し、EC企業の持続可能経営を促進しています。

日本企業への実践ガイド

韓国市場で成果を上げている日系ブランドの共通項は、チャネルミックス・商品ローカライズ・高速PDCAの3点をスピーディーに回していることです。

チャネルミックス最適化

EC: クーパン・ネイバー公式ストアに加え、自社D2CサイトをShopify Koreaで構築しロイヤル顧客を囲い込む。EC売上比率が一定水準を超えた段階でSSG.comや11stへの拡張を検討。

ライブ: 現地MCNと定期的な配信を行い、再生アーカイブをTikTok・Instagramに”短尺切り抜き”で二次利用。

百貨店: ポップアップを定期的に実施し、オンライン誘導用のQRコードを統一デザインで設置。

ブランドローカライズ&クリエイティブ戦略

商品名・パッケージはハングルと英語を併記し、成分アイコンで機能を視覚化。韓国Z世代の関心が高い「ヴィーガン」「クリーンビューティー」「韓方(ハンバン)」などのキーワードと親和性がある場合は、メインビジュアルやLPに活用。

データ活用とCRM

N Pay購買データとSNSハッシュタグ解析結果を統合し、定期的な分析とプラン更新を実施。LINE Plusのミニアプリを活用した購入レシートポイントシステムなど、OMO経由会員のLTV向上施策を展開。

オフライン連携(OMO)

THE HYUNDAI SEOULやLotte World Mall内のライブスタジオとタイアップし、来店客をリアルタイムで配信に巻き込む”ショッパブルイベント”を開催。RFタグで来店客の動線を分析し、効果的なクーポン配布を実現。

規制対応・決済/税務オペレーション

個人情報保護法(PIPA)改正により、顔認識・音声データの取り扱いが厳格化。ライブコマース配信時は事前同意取得と暗号化保管が必須。電子インボイス義務化(2025年下期予定)に備え、韓国ローカルERP連携モジュールを準備。

決済手段はN Pay・Kakao Pay・Samsung Payの3種で売上の大部分をカバー。現地ウォン建て請求により手数料負担を軽減。

KPI設計と高速PDCA

セールスファネルKPI:リーチ/視聴(ライブ)→カート投入→購入→リピートの各ステージを定期的にモニタリング。クリエイティブKPI:動画3秒視聴率・エンゲージメント率を重視し、素材別A/Bテストを実施。

この6つの施策を組み合わせ、”現地速度”でPDCAを回すことが韓国市場成功の鍵となります。各施策は小規模実装から始め、データに基づきスケールさせることで投資効率を最大化してください。

まとめ

韓国小売市場は「百貨店の体験価値」「ECの即時配送」「ライブコマースの熱狂」が三位一体で進化しています。日本企業はスピード・体験・オムニチャネルをキーワードに、現地パートナーシップとデータドリブン運営を徹底すれば勝機があります。ぜひ本稿のインサイトを実務に落とし込み、韓国攻略を一歩前へ進めてください。


参照ソース

  1. NNA ASIA・韓国・商業「大手百貨店の売上高、24年は0.9%増加」
  2. 【2025年】韓国越境ECの勝ち筋と市場規模を徹底解説!
  3. KORIT「韓国におけるライブコマースとEコマースの未来」
  4. 日本経済新聞「EC大国・韓国で中国勢が猛攻 王者クーパン赤字転落」
  5. ジェトロ「拡大するEC市場(世界)」
  6. 韓国ECのEC市場規模は? | 人気サイトランキングからトレンドまで