韓国市場マーケティングの価格設計|割引依存を脱却するバンドル×限定×会員の実務

はじめに:韓国の「価格戦略」は値下げではなく“比較のされ方”の設計です

韓国ECはモバイル起点で意思決定が速く、クーポン・会員・ライブなどで「実質価格」が即座に並べられやすい市場です。公表統計の一例として、Statistics Koreaの「Online Shopping in June 2025」ではオンライン取引額が21.8977兆ウォン、モバイル取引額が17.0339兆ウォンと示されています(モバイル比率は約78%=筆者算出)。


この環境で日本企業が“単品の割引率”だけで勝負すると、短期売上は取れても、参照価格の崩れや粗利の毀損が先に来ます。本稿は、韓国市場マーケに関心のある日本企業担当者向けに、バンドル/限定/会員で「割引に依存しないのに、割引にも勝てる」価格設計を、チャネル差・カテゴリ差を織り込みながら整理します。

出典:Statistics Korea “Online Shopping in June 2025”

 

まず押さえる:韓国で“割引前提の比較”が起きやすい3つの理由

ここを理解すると、施策が「値下げ」ではなく「パッケージ設計」になるのが自然に見えてきます。

 

1)モバイル中心で、比較と離脱が速い

モバイル比率が高いほど、検索→比較→購入が短時間で進み、決済直前のクーポン適用後価格まで見られがちです。


示唆:単品価格を守るだけでは不十分で、「比較単位」を変える必要があります。

 

2)会員が“値引きの入口”として一般化している

CoupangはWow Membershipを月7,890ウォンへ変更すると公式に告知しています。
NAVERもNaver Plus Membershipを月4,900ウォン/年46,800ウォン(VAT含む)と公式ヘルプで明記しています。

示唆:現場では「会員=ポイント/クーポン/特典の束」であり、割引をゼロにするのではなく、割引を”権利化”して管理する発想が必要です。

 

3)割引“表示”の信頼が重要(やり過ぎはリスク)

KFTCは不当な表示・広告(誤認、比較根拠の欠如など)に対する枠組みを示しており、参照価格や比較条件が曖昧な訴求はリスクになります。


示唆:「大幅OFFの演出」を増やすより、「なぜその条件で得なのか」を説明できる設計が、LTVとブランド信頼に効きます。

 

チャネル別に変わる:同じ商品でも“価格の守り方”は違います

韓国は「どこで売るか」で価格戦略が変わります。ここを入れると、施策が浮かなくなります。

 

Coupang:手数料と配送体験が価格を左右しやすい

Coupang Marketplaceはカテゴリ別の手数料テーブルを公開しており、粗利設計の前提になります。


示唆:Coupangでは「送料・配送期待」と「手数料」を織り込んだ上で、単品の値引きよりセットのAOV引き上げが効きやすいです。

 

Naver SmartStore:流入経路と“運用”が利益を左右しやすい

SmartStoreのヘルプには、手数料体系の変更(適用開始日や、ショッピングライブ等の料率例)が明記されています。


示唆:Naverは検索・レビュー・ライブなど運用要素が強く、価格だけでなく「用途別バンドル」「レビュー導線」「会員特典の見せ方」で勝ちやすいです。

 

自社D2C/越境EC:会員は作れるが、集客コストが重い

自社側で会員・バンドルを自由に設計できる反面、集客は広告・コミュニティ・CRMが前提になります。ここは「割引を消す」ではなく、会員の権利(クーポン/ポイント)+体験価値(先行/保証/サポート)の組み合わせで、割引依存を減らします。

 

バンドル設計:比較単位を“単品”からずらす最短ルート

バンドルは抱き合わせではなく、比較される土俵を変える方法です。導入のコツは「原価足し算」より「用途名(悩み・シーン)」です。

 

使えるバンドル4型(カテゴリ差も吸収できます)

狙い向いているカテゴリ
用途バンドル(悩み/シーン)単品比較の回避コスメ、日用品、食品
体験バンドル(配送/保証/サポート)価格ではなく安心を買わせる家電、ベビー、健康系
クロスカテゴリ(生活提案)真似されにくい生活雑貨×日用品など
期間バンドル(週末/イベント)今買う理由を作るファッション、ギフト

SEOで効く書き方:商品名より先に「用途」を置きます(例:敏感肌ルーティンセット、旅行ミニセット、ギフトセット)。
運用の現実:割引が必要な場合も、バンドル側に寄せて“単品の参照価格”を守ります(表示の根拠が曖昧にならないよう注意)。

 

限定設計:値引きよりも“買う理由”を根拠付きで作る

限定は強い一方、乱用すると信頼を削ります。韓国ではコラボやドロップ的な熱量があるカテゴリ(特にファッション/ビューティ)ほど、「限定=コミュニティ参加の証」になり得ます。だからこそ、限定の根拠が重要です。

 

限定の型と、必ず添える一文

  • 数量限定:なぜ数量が決まるのか(生産ロット、原料、契約)
  • 期間限定:なぜ終期が決まるのか(季節、イベント、許諾)
  • コラボ限定:なぜ組むのか(世界観、利用シーン、ファン層の一致)

 

観光・訪韓文脈と絡めるなら、CJ Olive Youngが外国人顧客の広がり(189カ国、取引約942万件)を報じられているように、体験導線と限定は相性が良いです。

 

会員設計:「割引を消す」ではなく「割引“だけ”にならない」構造にする

韓国の会員は、実務的にはポイント・クーポンの期待値が高いです。したがって、会員施策は「値引き以外」一本では弱くなりがちです。おすすめは、割引を“権利化”しつつ、体験価値で上書きする設計です。

 

ベースライン(公式に確認できる価格例)

  • Coupang Wow:月7,890ウォン(公式告知)
  • Naver Plus:月4,900ウォン/年46,800ウォン(公式ヘルプ)

 

日本企業が再現しやすい「3段会員」最小構成

1)Free:初回の不安を減らす(使い方/保証/レビュー導線)
2)Paid Light:権利(クーポン/ポイント)+特権(先行/優先/保証)
3)Tier:金額だけでなく行動(レビュー、UGC、紹介)で上がる

 

【会員ベネフィットの見せ方(ズレ防止)】

  • NG:実質◯◯%OFFだけを前面に
  • OK:クーポン/ポイント(権利)+先行/優先/保証(体験)をセットで提示
    表示が誤認を招かないよう、比較条件や根拠を明確にします。

 

90日実装プラン:バンドル×限定×会員を“ひとつの価格パッケージ”にする

最後に、社内提案に落としやすい形で手順化します。

 

Day 1–15:実質価格の棚卸し(チャネル別)

  • Coupang:手数料テーブル前提で粗利を再計算
  • Naver:手数料体系と運用施策(ライブ等)を前提に設計

 

Day 16–45:用途バンドルを3本(低/中/高)

  • 低:スターター(失敗回避)
  • 中:悩み解決(比較単位変更)
  • 高:体験(保証/サポート/先行権利)

 

Day 46–75:限定を“説明可能”に統一

  • 限定理由のテンプレを作り、LP/商品ページ/広告で一貫
  • 表示の根拠を曖昧にしない(誤認リスクを避ける)

 

Day 76–90:会員MVPで「割引の出しどころ」を管理する

  • クーポン/ポイントは権利化して設計(ばら撒かない)
  • 先行/優先/保証で体験価値を上書き
  • KPIはCVRだけでなく、AOV、粗利率、継続率、返品率で判断

 

まとめ:韓国市場の価格戦略は「安くする」より「比べられ方を変える」

韓国ECはモバイル中心で比較が速く、会員・クーポンによる“実質価格”が当たり前に参照される市場です。ここで単品の値下げを繰り返すほど、売上は立っても利益と参照価格が削られ、長期的に不利になりやすいです。
だからこそ勝ち筋は、価格を下げることではなく、価格が比較される単位と文脈を設計し直すことにあります。

 

  • バンドルで比較単位を変え、
  • 限定で今買う理由を根拠付きで作り、
  • 会員で“割引の権利化”と“体験の上書き”を両立することです。
    まずは自社商品の「単品で比較される要素」を3つ書き出し、用途バンドル3本と会員MVP(権利+特権)から着手してください。90日で「割引に勝つ設計」に切り替えられます。

 

具体的には、

  • バンドルで「単品価格の比較」から「用途・体験の比較」へ移し、
  • 限定で“今買う理由”を根拠付きで提示し、
  • 会員で割引をばら撒かずに“権利化して管理”しながら、先行・優先・保証などの体験価値で上書きする。
    この3点を一体で回すことで、割引に寄らずに売れる状態を作れます。

 

次のアクションはシンプルです。まず自社商品の「単品で比較される要素」を3つ言語化し、それを崩せる用途バンドルを3本作ってください。並行して、クーポン/ポイント(権利)と先行/保証(特権)を最小構成で組み合わせた会員MVPを走らせます。

 
この順番で90日運用すれば、「割引を足して売る」から「割引に勝てる設計で売る」へ、現実的に切り替えられる可能性が高まるはずです。

 


 

参照