韓国では近年、音声コンテンツが急速に拡大しています。韓国のスマートフォン普及率は95%を超え、地下鉄やバスでも無制限データプランでストリーミングを楽しむ姿が当たり前になりました。さらに、5Gネットワークの全国展開とAI音声合成の高度化によって、リスナーは「ながら聴取」を超えた没入体験を得られるようになっています。
2020年のパンデミック以降、画面疲れを感じたユーザーが”耳で学ぶ・耳で楽しむ”行動に回帰し、「耳の経済圏(Ear-Economy)」が拡大しました。この市場変化を受け、韓国の音声プラットフォーム各社は積極的な投資と機能拡充を進めており、音声領域を次の成長エンジンと見据えています。
韓国音声市場の急成長と3つの要因
1. ポッドキャスト利用率の高まり
韓国では近年、ポッドキャストの利用が急速に拡大しています。首都圏の高校・大学では学習補助としての教育系ポッドキャストが増え、自治体も地域行政情報を音声で配信するなど、公共セクターでも利用が進んでいます。この背景には、韓国特有の通勤・通学時間の活用文化と、高品質な教育コンテンツへの需要があります。
2. 5Gとスマートデバイスの普及
韓国政府は5G基地局整備を国家プロジェクトとして推進しており、総務省の調査によると、韓国の5G人口カバー率は世界最高水準に達しています。スマートスピーカーについては、Statistaの調査で韓国の普及率が40%を超えており、世界トップクラスの数値を記録しています。
この充実したインフラにより、家事をしながらニュースを聞くライフスタイルが定着し、屋内・屋外を問わず音声ストリーミングが途切れることなく利用できるため、リスナーの利用シーンが一気に拡大しています。
3. AI音声合成とパーソナライズ技術
HYBE傘下のSupertoneは2025年2月、150種類の声でコンテンツ制作が可能なTTSサービス「Supertone Play」を正式リリースしました。この技術により、企業は制作コストを大幅に削減しながら、高度にパーソナルな音声体験を提供できるようになりました。
韓国で主流のオーディオプラットフォーム
プラットフォーム | 主な特徴 | コアユーザー層 |
---|---|---|
Kakao i | メッセンジャー連携、音声検索 | 20-40代 |
Naver NOW | 24時間ライブ&VOD、K-POP特化 | Z世代 |
Melon | 音楽+ポッドキャスト、プレイリスト広告 | 10-30代 |
Podbbang | 独立系ポッドキャスター多数 | ニッチファン |
Spotify Korea | グローバル独占ポッドキャスト | 多国籍層 |
Naver NOWはK-POPアイドルの独占ライブ配信を入り口に、Z世代ユーザーの”推し活”を強力に支援しています。Melonは「Music+Talk」フォーマットでプレイリストとトークをシームレスに切り替え、広告はプレイリストの文脈に合わせて挿入しています。
Spotifyは2021年の韓国参入以降、現地向け独占番組を積極的に制作し、韓国語UIでのリコメンド精度を強化しました。現代自動車グループは車載インフォテインメントにNaver NOWのウィジェットを搭載し、”車内聴取”という新たなユーザーモーメントを開拓しています。
消費行動の特徴と日本との違い
視覚中心カルチャーとのハイブリッド
韓国は動画やWebtoon文化が強い一方、YouTubeのポッドキャスト機能拡充により映像+音声のハイブリッド視聴が増加しています。ASMRや睡眠導入コンテンツも拡大しており、深夜時間帯のリスニング比率が前年比で増加傾向にあります。
「短時間・高濃度」指向
平均通勤時間が30分未満の韓国では、一話15〜20分のスナックサイズが主流です。番組冒頭で要点を提示し、チャプター分割で再生しやすくする設計が好まれます。10代後半〜20代前半は倍速再生を活用する傾向があり、速度変換でも聞き取りやすい録音品質が重視されています。
日本企業が韓国向けにローカライズする場合、オープニングの自己紹介を短くし”結論先行”の編集が離脱防止に有効です。
成功事例:韓国企業に学ぶ音声マーケティング
Samsung Lifeの生成AI活用
Samsung Lifeは生成AIで台本・ナレーション・BGMを内製化することで、制作コストを大幅に削減しました。同時に配信したオーディオ版ポッドキャスト経由での問い合わせが従来のバナー広告と比較して大幅に増加し、社内調査では「信頼度向上」が最大の広告効果として挙げられています。
Hyundai Cardの音声マガジン
Hyundai Cardは会員限定の音声マガジンを開始し、プレイリストとカード優待情報をセットで配信することで、会員エンゲージメントの向上を実現しました。音声コンテンツ聴取会員の利用頻度が非聴取会員を上回る結果を示しています。
音声広告市場の展望と計測指標
韓国のデジタル広告市場は継続的な成長を見せており、その中で音声広告は新たな成長分野として注目されています。
音声広告の平均CPMは動画広告の約70%程度と低コストながら、ブランド想起リフトは高い効果を示しています。
企業が成功を測る主要な指標は以下のとおりです:
- リスニングスルー率(LTR): 再生開始から完了まで聴取した割合。40%以上で優良とされる
- クリック率(CTR): 音声に挿入したCTAリンクやバナーのクリック割合。1%超で高水準
- ポストリスニングCVR: 聴取後7日以内にEC購入やアプリDLに至った比率
- ブランドリフト調査: 想起率や好感度の変化を定点観測し、クリエイティブ最適化に活用
日本企業が韓国市場で成果を出す5つのヒント
1. 短尺シリーズ化
15分程度×全6話のミニシリーズでテスト配信し、リスナーのフィードバックを元に高速で改稿します。ポッドキャスト専用RSSを作り、複数プラットフォームに同時配信すれば初速を確保できます。
2. マルチプラットフォーム同時配信
Naver NOWとSpotifyを軸に、Kakao iの音声検索にも拾われるようメタデータを最適化します。RSSのタイトルに「韓国語キーワード+ブランド名」を含めるとSEO効果も期待できます。
3. K-カルチャーとの連動
K-POPや韓国ドラマの話題をコンテンツに組み込み、ハッシュタグを活用してソーシャル拡散を狙います。リリース日は新曲配信やドラマ放送日と重ねると話題性が高まります。
4. AIパーソナライズ広告
Supertoneなどのサービスを活用し、名前や地域特性を差し込んだカスタム音声を生成することで、CTRの向上が期待できます。ユーザーセグメント別に声質を変えることでブランド好感度が向上します。
5. オフライン施策との統合
コンビニやカフェにQRコードを設置し、限定音声を配布します。購買データとリスニングデータを統合分析してLTVを引き上げ、リピーター施策に活用します。
まとめと次のアクション
韓国の音声コンテンツ市場は高い利用率と先進技術に支えられ、今後も拡大が見込まれます。日本企業は「短尺音声×AIパーソナライズ」を核に、ローカルプラットフォームでの同時展開とK-カルチャー連携を行うことで競合優位性を確立できます。
まずは小規模テスト番組を制作し、リスニングスルー率・CTR・売上貢献度をKPIに高速でPDCAを回すことが重要です。音声市場は参入コストが低い今こそチャンスであり、既存のホワイトペーパーやウェビナーを音声化するだけでも潜在顧客に新しい接点を創出できます。
この機会に社内外のステークホルダーを巻き込み、音声DXを推進してください。
参照ソース