リールからメタバースへ|韓国XR体験マーケティング最前線と実装ステップ

韓国は世界最高水準のデジタルインフラを基盤に、XR(AR/VR/MR)を活用したマーケティング革新の最前線に立っています。DataReportalによると、2025年1月時点で韓国のインターネット普及率は97.4%、モバイル接続数は6,920万件(人口比134%)に達し、ほぼ全国民レベルでのデジタルリーチ基盤が確立されています。

この強固な通信インフラに加え、政府主導のメタバース産業振興政策により、XRを活用したマーケティング実験が急速に拡大しています。韓国市場を狙う日本企業にとっては、リール(短尺動画)で認知を獲得し、メタバース空間で”体験的”に購買へ導く二段構えの戦術が現実解となっています。

韓国XR/メタバース市場の現状

韓国のXR・メタバース市場を理解するために、「規模・政府・文化」の3軸で全体像を整理しましょう。

1)市場規模とユーザー層

韓国発のメタバースプラットフォーム「ZEPETO」は、全世界で4.6億人以上のユーザーを獲得し、月間アクティブユーザーは約2,000万人規模で推移しています。Z世代を中心とした若年層が主要ユーザーとなっており、アバター経済とUGC(User Generated Content)が活発に展開されています。

Instagram利用者数は2,360万人(人口の約45.7%)に達し、リール動画を通じたファネル上段の最大接点として機能しています。DataReportalの最新データによると、韓国のソーシャルメディア利用率は94.7%と世界最高水準を記録しており、XRマーケティングの土壌が整っています。

2)政府の集中投資

韓国科学技術情報通信部は2022年、メタバース生態系構築のために2,237億ウォン(約224億円)規模の投資を発表しました。ジェトロの調査報告によると、この投資により2026年までに関連人材22万人の育成を計画しており、公的支援によるサンドボックス制度でスタートアップが高速でPoC(概念実証)を回せる環境が整備されています。

さらに、2024年8月には世界初となる「仮想融合産業振興法」が施行され、メタバース産業を法的に支援する体制が確立されました。

3)K-カルチャーと高速拡散力

K-POPや韓国ドラマという強力なIPが、XR空間での滞在時間とUGC拡散を大幅に向上させています。SKテレコムが運営する「ifland」では、K-POP関連イベントが定期的に開催され、海外ユーザーの参加率が50%以上を占めるなど、文化コンテンツとメタバースの融合が成功事例として注目されています。

成功事例:体験設計と成果分析

CUコンビニ|世界初のメタバース公式提携店舗

BGFリテールは2021年8月、ZEPETO内のハン川沿いに仮想CU店舗を開設しました。Korea JoongAng Dailyの報道によると、これは世界初のメタバース公式提携コンビニエンスストアとして話題を呼び、オープン初期に大きな注目を集めました。

現在まで50万点以上のファッションアイテムが販売され、ティーン世代を中心に高い人気を維持しています。バーチャル店舗での体験が実際の店舗への来店促進にも寄与しており、オムニチャネル戦略の成功例として評価されています。

ZEPETO×企業コラボレーション

メタバース総研によると、ZEPETO内でのクリエイター制作スキン販売累計は23億点を超えており、サービス全体収益の15%以上をUGCが占めています。これにより、ブランド協業のROI向上が実現されています。

ショート動画とXRのハイブリッド戦略

韓国の20〜30代は1日平均80分をショート動画視聴に費やしており、そのままメタバースへ遷移して消費行動を取る”縦型動線”が確立されつつあります。

リール→ZEPETOの導線設計

  • リール広告で認知獲得後、メタバース体験へ誘導
  • ハッシュタグチャレンジとアバター撮影による二次拡散
  • インフルエンサーブリッジ施策による転換率向上

 

日本企業には「15秒リール+ARフィルター」のMVP(最小実行可能製品)を作成し、KPIを計測してからメタバースへ拡張するアプローチが推奨されます。

実装4ステップ:企画からKPI設計まで

Step1:市場・競合リサーチ(2〜4週間) デジタル行動ログ、SNS分析、現地エスノグラフィを組み合わせ、ターゲットが求める”没入価値”を定義します。

Step2:体験シナリオ設計 リール(認知)→メタバース(体験)→EC/オフライン(購買)というカスタマージャーニーを脚本化し、各タッチポイントでの最適化を図ります。

Step3:パートナー選定・開発

  • 現地制作会社との分業体制構築
  • PoC期間:3か月、本実装期間:6か月
  • 予算規模:ミニゲーム+アバター衣装で3,000万〜5,000万円

 

Step4:効果測定・改善

KPI領域 指標 データソース
リーチ リール再生数/来場者数 Meta広告API/ZEPETO Analytics
エンゲージメント いいね・UGC投稿数 SNS+メタバースDB
没入度 滞在時間×アクション数 プラットフォーム独自指標
ROI ROAS/購買転換率 EC連携・オフラインPOS

韓国市場の比較優位とリスク要因

技術競争力

韓国は米国に次ぐメタバース関連特許保有国として、世界の技術革新をリードしています。特に5G通信技術とXR技術の融合により、高品質なメタバース体験を提供できる環境が整っています。

文化輸出力

K-POPやK-ドラマが世界的なファンベースを持つことで、メタバース内イベントの動員力が他国と比較して圧倒的に高くなっています。

リスク要因

  • プラットフォーム乱立によるユーザー分散
  • K-カルチャートレンドの急変に伴うROI変動
  • 技術進歩による既存プラットフォームの陳腐化リスク

 

まとめと次のアクション

韓国XR市場は「小さく試し、結果を見て素早く拡張」できる環境が整っています。成功の鍵は、確実なデータに基づく戦略立案と、現地パートナーとの密接な連携にあります。

推奨する次のアクション:

  1. 今月中:社内に「韓国XR体験ブリーフ」を展開
  2. 2週間以内:試作リールとARフィルターを完成
  3. 1か月以内:ZEPETO/ifland担当者と商談を設定

 

韓国メタバースの波は待ってくれません。本記事を手引きに、没入感ある顧客体験で次の成長曲線を描きましょう。


参照ソース

  1. DataReportal「Digital 2025: South Korea」
  2. ジェトロ「プラットフォーム時代の韓国コンテンツ産業振興策および事例調査」
  3. Korea JoongAng Daily「CU in the metaverse」
  4. 韓国科学技術情報通信部「世界初、メタバース産業を振興する法律を施行」
  5. 電通「アジア最大級のメタバースアプリ『ZEPETO』の代理店契約を締結」
  6. メタバース総研「ZEPETOとは?ファッションメタバースに3億人がハマる理由」
  7. Mogura VR「韓国のXR・メタバース企業8社が『XR総合展』に出展」