韓国ドラマやバラエティ番組の勢いは、Netflix・Disney+・TVINGなどのグローバル配信プラットフォームの普及により、世界規模での視聴機会が大幅に拡大しています。なかでもPPL(プロダクトプレイスメント)は、視聴者の没入感を損なわずブランドを印象付ける施策として急速に採用が進んでいます。
韓国コンテンツ振興院によると、2022年の韓国コンテンツ産業輸出額は132億4300万ドルに達し、前年比6.3%増を記録。日本企業が韓国市場に参入する際には、現地メディア規制や視聴者の広告受容性を理解し、実証済みの事例に基づいて戦略を構築することが不可欠です。本記事では、最新データとケーススタディを交えながら、ブランド想起率を効果的に向上させるPPL活用法を体系的に解説します。
韓国発PPLの現在地とグローバルインパクト
韓国コンテンツの世界的ヒットは、PPLを通じて企業が国境を越えて露出を獲得できる土壌を生みました。
米国マーケティング専門メディアHollywood Brandedは「Kドラマのグローバル成功が、製品露出に国際的リーチを与えている」と分析しています。『イカゲーム』『愛の不時着』の爆発的ヒットにより、韓国ドラマを通じたブランド認知度が大幅に向上。Netflix公式統計によると、『イカゲーム』は世界94カ国すべてで1位を記録し、1億1100万人の視聴者を獲得しました。
一方、韓国の視聴者は広告リテラシーが高く、PPLがストーリーと調和しなければ即座にSNSで批判されるリスクがあります。そのため「自然さ」と「物語との親和性」がブランド想起を高める最大の鍵となります。グローバル配信に合わせて多言語字幕が追加されることで、ブランド名が字幕に表記されるかどうかも想起率を左右する要素になっています。
規制・視聴者動向とビジネス機会
韓国では1974年から2021年6月まで地上波TVの番組途中でのCM挿入が放送法で禁止されており、この長期間の規制によりドラマ制作費を補う収益源としてPPLが発達・定着しました。
2021年7月から中間CM挿入が解禁されましたが(45分以上の番組で1分以内のCM1回まで等の制限あり)、すでに確立されたPPL文化は継続し、視聴者にとって自然な広告手法として受け入れられています。
視聴者側の意識にも変化がみられます。最新のメディア消費調査によると、Z世代の78%が「PPLがあっても視聴継続に影響しない」と回答する一方、「物語から浮く広告演出は不快」と答えた割合も62%に達しました。また、韓国文化観光研究院の調査では、視聴者の54%が「ドラマ内でサービス利用シーンがあると実際に検索・購入を検討する」と回答しています。
このように、適切なPPLは視聴者の購買行動に直接的な影響を及ぼす一方、規制コンプライアンスとクリエイティブ品質の両立が成功の前提条件となります。日本企業にとっては、韓国ならではの規制枠組みを逆手に取り、エンターテインメント価値を損なわない形でブランドを訴求する好機が広がっています。
ブランド想起率を高めるPPL設計5ステップ
1. KPI設定:想起率と購入意向を分けて測定
PPL施策の評価では「ブランド想起率(Brand Recall)」「好意度(Brand Affinity)」「購入意向(Purchase Intent)」を分離してモニタリングすることが重要です。具体的には、放映開始前後でオンライン調査を実施し、想起率が10pt以上向上した場合に購買行動へ波及する傾向が高いとされています。
2. ドラマ選定:視聴者属性と世界配信範囲を精査
作品選定では、視聴者デモグラフィック、海外配信先、ジャンルの熱量を多面的に評価します。
地上波ドラマは国内視聴率が高い一方、Netflixオリジナルは北米・東南アジアなど多地域へシームレスに波及します。また、ラブコメは美容・日用品カテゴリー、サスペンスはテクノロジー・フードデリバリーなど、ストーリーカテゴリによって適合するブランドも異なります。
3. PPLタイプ設計:視覚・セリフ・ストーリー統合
PPLの露出形式は(A) 視覚露出、(B) セリフ露出、(C) ストーリー組み込み——の3階層で設計します。
Samsungは『愛の不時着』で3階層を組み合わせた「3D型PPL」を採用し、ブランド記憶を有意に向上させました。視覚のみの場合に比べ、ブランド想起率が22%上昇したと報告されています。
4. クリエイティブブリーフ共有:制作側との共同設計
脚本段階で「なぜその商品がシーンに必然か」を制作チームと共有し、後付け感を排除します。たとえば食品ブランドなら「主人公のキャラクター設定に関連する味覚体験」をストーリーに組み込むなど、商品機能とドラマ世界観の接点を示すことが肝要です。
5. 露出後アクティベーション:SNS・EC連動
放映後24時間以内に韓国・日本双方の公式SNSで「ドラマ内シーンの切り抜き+購入リンク」を投稿し、短期売上を刈り取ります。特設ランディングページでは、シーン別商品リストと視聴者レビューを表示し、UGC(User Generated Content)を促進することでLTVを最大化できます。
主要ブランドの成功事例と効果
以下の事例は、韓国PPLがブランド想起率を押し上げた典型です。実際のデータとともに要点を整理します。
Samsung Galaxy
- 掲載番組:『愛の不時着』
- 注目ポイント:視覚+ストーリー一体型でブランド記憶22%向上
Laneige
- 掲載番組:『太陽の末裔』
- 注目ポイント:インドネシアで新規購入者比率1.8倍に拡大
Kopiko
- 掲載番組:『ヴィンチェンツォ』
- 注目ポイント:想起が購入意図へ波及、EC売上250%増
Subway
- 掲載番組:17本以上のKドラマ
- 注目ポイント:新メニュー認知度35%増、来店動機を創出
Subwayのケースは、番組内で新商品をティーザー的に紹介し、放映翌週に売上が急伸しました。
またLaneigeはドラマ放映後2週間でInstagramフォロワーが30万人増加し、UGC投稿数も5倍に拡大。これらの成功事例は、ストーリーとの整合性・SNS連携・リテール誘導という3要素が奏効した好例といえます。
日本企業が実行する際のチェックリスト
現地レギュレーション確認
KCSCガイドラインのほか、プラットフォーム固有の広告ポリシー(Netflixは2秒以上のロゴクローズアップを推奨しない等)も確認しましょう。
ローカライズ済みパッケージ準備
ハングル表記に加え、英語や繁体字を併記することで海外視聴者の検索導線を確保し、ECへの流入を高めます。
二国間コミュニケーション設計
日本本社—韓国制作会社—広告代理店の三者間でリアルタイムにクリエイティブ調整を行うワークフローを常設し、認識齟齬を防止します。
効果測定フレーム構築
放映前後でBrand Lift Surveyを実施し、SNS指標(メンション数・シェア数)とEC/実店舗売上を統合分析することでROIを可視化します。
コンテンツIP活用
放映後にドラマ公式グッズやコラボキャンペーンを共同展開し、長期的なブランド価値を醸成します。さらにファンイベントを開催することで、ブランドコミュニティ形成を促進できます。
上記チェックリストを実行することで、PPL投資対効果を最大化し、ブランド想起率と購買行動を双方向に強化できます。
まとめと次のアクション
韓国のPPLは「広告」と「物語体験」を両立させる稀有なマーケティング領域です。
日本企業が成功する鍵は、「KPIを緻密に設計 → 視聴者と物語に溶け込むクリエイティブを設計 → 放映後のアクティベーションで刈り取る」という一連のPDCAを高速に回すことに尽きます。現地パートナーとの協業体制を早期に整え、制作初期段階から企画に参画することで、露出の質と量を最大化できます。
まずは、貴社の商品・サービスが「なぜその物語に不可欠なのか」を言語化し、制作サイドと共有するブリーフを作成してみてください。また、放映タイミングに合わせて韓国ECプラットフォーム(Coupang、11번가など)での販促キャンペーンを事前に設計することで、露出と購買行動を一気通貫で最適化できます。
今日から準備を始めれば、次のヒット作品でブランド想起率を効果的に向上できるかもしれません。
参照ソース
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The Effectiveness of Samsung Product Placement in Korean Drama – https://ejournal.unsrat.ac.id/v3/index.php/emba/article/download/36141/33647
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Product Placement on Korean Drama as an Effective Tool for Brand Positioning (Case Study: Laneige) – https://www.researchgate.net/publication/341185938_PRODUCT_PLACEMENT_ON_KOREAN_DRAMA_AS_AN_EFFECTIVE_TOOL_FOR_BRAND_POSITIONING_CASE_STUDY_LANEIGE/fulltext/5eb2baf5299bf152d69ddcca/PRODUCT-PLACEMENT-ON-KOREAN-DRAMA-AS-AN-EFFECTIVE-TOOL-FOR-BRAND-POSITIONING-CASE-STUDY-LANEIGE.pdf
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The Influences of Kopiko’s Product Placement in Korean Drama – https://www.atlantis-press.com/proceedings/gcbme-22/125991893
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Stat of the Day: Subway in 17 Korean Dramas – https://restofworld.org/2020/stat-of-the-day/korean-drama-subway/
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韓流コンテンツと共鳴するブランド力 – https://dentsu-ho.com/articles/9130
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선 넘는 PPL, 선도 못 지키는 방심위 제재 – https://www.dailian.co.kr/news/view/903183
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The Global Success Of K-Dramas And Its Impacts On Product Placements – https://blog.hollywoodbranded.com/the-global-success-of-k-dramas-and-its-impacts-on-product-placements
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韓国コンテンツ産業支援政策調査 – https://www.vipo.or.jp/u/2024_contentsshienseisakuchosa_korea.pdf
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Korean drama (K-drama) popularity worldwide 2024 – Statista – https://www.statista.com/statistics/999239/south-korea-korean-drama-popularity-worldwide/
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PPL: The good, the bad, and the ugly – Dramabeans Korean drama recaps – https://dramabeans.com/2018/12/ppl-the-good-the-bad-and-the-ugly/