韓国はインターネット普及率が97%を超えるデジタル大国であり、EC市場規模も2024年時点で約804億ドルと世界第6位に位置します。特にモバイル経由の取引が主流で、オンライン購入の約65-72%がスマートフォン経由での購入となっています。
こうした巨大市場でコンバージョン率(CVR)を最適化することは、売上拡大に直結します。実際、ECサイトの平均CVRは一般的に1.5~3%程度ですが、CVRが小幅改善するだけでも売上に大きな影響を与えると指摘されています。
本記事では、韓国ユーザー特有の行動や最新トレンドを踏まえ、CVRを劇的に改善するためのUI/UX最適化ポイントをチェックリスト形式で解説します。ターゲット市場の文化・習慣に合わせたローカライズ施策の重要性を理解し、自社サイトの改善に役立ててください。
韓国ユーザー行動とCVR基本指標
まず韓国ユーザーのデジタル行動の概要と、CVRに関連する基本データを確認します。
韓国ではオンラインショッピングが日常化しており、2019~2023年で約75%もの人がインターネットで買い物をした経験があるとの調査があります。モバイルシフトも顕著で、2024年末時点でウェブトラフィックの約6割がスマートフォン経由となっており、スマホファーストでのUX提供は必須と言えます。
また主要ECサイトの利用動向を見ると、韓国最大手のクーパン(Coupang)をはじめとするEC全体の市場規模拡大が続いています。一方で、購入プロセス全体のCVRを左右する要因として、カート離脱率の高さが挙げられます。世界的な傾向ですが、オンライン購入者の約70-80%近くがチェックアウト段階で離脱するとされ、韓国市場でも例外ではありません。
離脱の主な理由は「ページ表示の遅さ」「決済・フォームの複雑さ」などユーザビリティ上の課題であり、サイト表示速度が1~3秒遅れるだけで直帰率が上昇することがデータで示されています。こうしたユーザー行動データから、韓国向けサイトでは迅速でシームレスな購買体験が何より重要だと分かります。加えて、韓国は「빨리빨리(パリパリ:速く速く)」文化と言われるほどスピード重視の国民性があり、サイトでもストレスなく素早く目的を達成できる設計が求められます。
さらに韓国市場特有の傾向として、情報収集経路やソーシャルメディア活用にも特徴があります。例えば日本ではテレビCM等が商品認知経路に入りますが、韓国ユーザーはテレビ経由の情報収集が少なく、代わりに検索やSNSから直接情報を得る割合が高いと報告されています。検索エンジンのシェアもGoogleと並んでNaverが根強く約40-50%を占めるなど、ローカルプラットフォームが依然として強力です。
またSNSでは、カカオトークの利用率が98.9%とほぼ全ユーザーに普及し、YouTube(84.9%)、Instagram(63.8%)といったプラットフォームが続きます。特にInstagramの利用率は近年急伸しており、若年層を中心にSNSが購買行動に与える影響も増大しています。実際、消費者の多くがSNS上のコンテンツをきっかけに商品を購入した経験があるとの調査もあり、韓国市場でもインフルエンサーや口コミがCVRに直結する重要要素となっています。
UI/UXチェックリスト①:ファーストビュー&ナビゲーション最適化
ユーザーがサイトに訪れて最初に目にするファーストビュー(第一画面)と、全体のナビゲーション設計はCVRに大きく影響します。韓国ユーザーに響くファーストビューを作るには、日韓でのデザイン傾向の違いを理解することが有益です。
情報量とビジュアルのバランス
日本のウェブサイトはファーストビュー上に大量のテキストや情報を詰め込みがちな傾向があります。一方、韓国のサイトは画像や動画を多用し、ユーザーにはスクロールしながら詳細情報に触れさせる構成が主流です。実際、スターバックスやゴディバの韓国公式サイトでは、ビジュアル中心で製品をイメージしやすいデザインが採用されており、日本版サイトのように文字だらけになっていません。
この違いから、韓国向けサイトではキャッチーで直感的なビジュアル訴求を重視し、伝える情報は絞り込んで簡潔にまとめることがポイントです。ファーストビューはページやサービスの「顔」であり、ユーザーの行動や印象を左右する最重要箇所です。「ユーザーにとってのメリットを簡潔に書くこと」が鉄則とされており、テキストの入れすぎによる視認性低下は避けましょう。
CTA配置とユーザー導線
ファーストビュー内のCTAボタン(例: 購入ボタンやお問い合わせボタン)の位置やナビゲーション動線も、ユーザーの次のアクションに直結します。効果的な配置として、従来ファーストビュー上部に配置していた申込みボタンを「画面下部」に置く手法があります。一見CVRが下がりそうな施策ですが、「ユーザーの視線はスクロール時に下方向に向かう」「特にスマホでは親指で画面下をタップする方が自然で押しやすい」というUX上の洞察に基づくものです。
特にスマートフォンで片手操作するユーザーが多い韓国では、画面下部に重要ボタンを配置することで自然なタップを誘発しやすくなります。併せてナビゲーションもシンプルかつ直感的にし、ユーザーが迷わず目的ページに進める導線を設計します。
韓国の大型ECサイト「MUSINSA(ムシンサ)」では、ファーストビューに多数のカテゴリショートカットアイコンを設置することで、一目で豊富な情報にアクセスできるよう工夫されています。たとえば韓国ではスポーツウェア需要が高い文化を反映し、アイコン一覧の先頭に「スポーツ」カテゴリを配置するなど細かなローカライズも行われています。自社サイトでも現地ユーザーの嗜好や行動パターンを考慮し、必要な情報への最短経路を用意することが重要です。
UI/UXチェックリスト②:決済・フォーム・信頼要素の最適化
購入フロー後半の決済手段や入力フォーム設計、信頼醸成の要素は、CVRを左右するクリティカルなポイントです。韓国ユーザーにスムーズかつ安心して購入してもらうための留意点を見ていきます。
ローカル決済手段の導入
韓国ではクレジットカード決済に加え、NAVER PayやKakao Payといった国内ユーザーに馴染み深い電子ウォレット決済が広く普及しています。NAVER Payは約2,400万人以上のオンライン購入者に利用されている人気サービスです。カカオペイも利用者数4,000万近くに上り、日常的に使われる決済手段となっています。
これらのローカル決済に対応することはチェックアウト時の離脱防止に不可欠です。実際、自社サイトにNAVER Payを統合することでテック系消費者層へのリーチが拡大し、スムーズな決済体験によってCVR向上に繋がるケースも報告されています。韓国ユーザーは慣れ親しんだ支払い方法が使えないと購入を躊躇する傾向があるため、決済手段は可能な限り現地標準に合わせましょう。
入力フォームの簡素化とソーシャルログイン
購入や会員登録時のフォーム入力も、最適化すべき重要箇所です。韓国ではネイバーやカカオといったソーシャルログインが非常に一般的で、ソーシャルログイン利用経験率は高い傾向にあります。
実際、新規登録時に独自会員登録とSNSログインの両方を提示すると、後者を選ぶユーザーが前者の2倍以上にのぼったとも報告されています。ソーシャルログインの中でも特に利用率が高いのはネイバー(約51%)とカカオ(約40%)で、この2つで全体の9割近くを占めます。
このため、韓国向けサイトでは「ネイバーIDでログイン」「カカオアカウントでログイン」といったボタンを用意し、ワンクリックで会員登録・サインインできるようにすることが効果的です。これにより入力項目の煩わしさを減らし、フォーム離脱を防止すると同時に、ネイバー・カカオ側で認証済みのユーザーデータ(名前・メール等)を取得できるため信頼性も向上します。
加えて、住所入力など避けられないフォーム項目についても、自動住所補完システムの導入や必須項目の最小化でできるだけ手間を減らす工夫が必要です。入力ミスへのリアルタイムな指摘や、電話番号・郵便番号の書式補助など細部のUX改善もCVR向上に寄与します。
安心感・信頼の醸成
韓国のユーザーに「このサイトは安全で信頼できる」と感じてもらう工夫もCVRに影響します。具体的には、サイト上にセキュリティや正規サービスであることを示すマークを表示することが基本です。韓国では電子商取引の安心マーク(eマーケットプレイス認証)や、消費者保護団体による認証ロゴを掲示しているECサイトも多く見られます。
またユーザーレビューや評価の見える化も重要です。韓国消費者は購入前に他者のレビューや口コミを綿密に調べる傾向が強く、特にNAVERのショッピングプラットフォームでは商品ごとのレビュー件数や星評価が売上を左右します。サイト上で実ユーザーの声(テキストや星評価、写真付きレビュー)を掲載したり、Instagram上のユーザー投稿を埋め込んで社会的証明を示すことも有効でしょう。
実際、18〜34歳の消費者の91%はオンラインレビューを身近な知人からの推薦と同等に信頼するとのデータもあります。また購入を迷って離脱しかけたユーザーに対し、ポップアップで「現在〇人がこの商品を見ています」「残り在庫わずか」といった緊急性・人気を示すメッセージを出す手法もCVR押上げに寄与します。
モバイル&SNS連携でCVRを底上げ
韓国市場でCVRを向上させるには、モバイル最適化とSNSプラットフォームとの連携を切り離して考えることはできません。
前述の通り、韓国ではモバイル経由の購買が主流であり、またSNSやメッセンジャーアプリが購買行動に密接に結び付いています。
モバイルUXの徹底強化
スマートフォンでの閲覧・操作体験を高水準に保つことは、韓国ユーザー相手のCVR改善において最優先事項です。
まずサイトの表示速度に留意しましょう。調査によれば、モバイルサイトが使いやすいと回答した訪問者は75%に上る一方、デザインが不十分な場合は73%が離脱を検討するといいます。読み込みに時間がかかれば直帰率が跳ね上がり、結果としてモバイルCVRがデスクトップより低くなる主因となります。
そのため、画像圧縮やコード最適化、CDN利用など技術面での高速化施策は欠かせません。
またモバイル画面に合わせたレスポンシブデザインや適切なフォントサイズ・ボタンサイズの設定も基本です。韓国語は英語や日本語に比べて文章が長くなる傾向があるため、スマホ画面上で折返しや改行を考慮したレイアウト調整も必要でしょう。
さらに、可能であればネイティブアプリやPWA(プログレッシブウェブアプリ)の活用も検討できます。調査では、モバイルアプリ経由の顧客はブラウザ経由よりもコンバージョン率が高いとのデータもあります。自社でアプリ提供が難しい場合でも、Webサイトをホーム画面に追加しやすくする工夫や、プッシュ通知機能の実装によってアプリライクなリテンション向上策を講じることができます。
Instagram・SNSとのショッピング連携
InstagramやFacebookといったソーシャルメディアを活用した購買導線づくりもCVR改善に寄与します。特にInstagramは韓国でも若者を中心に商品発見の場として機能しており、Instagramショッピング機能を使って投稿から直接商品ページに誘導する取り組みが増えています。
Instagram上で自社アカウントを運用し、商品画像や利用シーンの動画を投稿するだけでなく、投稿に製品タグを付けてそのままECサイトの商品詳細へリンクさせることで、スムーズな購入フローを実現できます。またインフルエンサーマーケティングとも組み合わせ、インスタグラマーにクーポンコード付きで商品を紹介してもらい、SNS経由のCVR最大化を図る手法も一般的です。
Kakao連携とチャットコマース
韓国で圧倒的シェアを持つメッセージアプリKakaoTalkとの連携も見逃せません。企業向けに提供されている「카카오톡 채널(チャネル)」を開設すれば、ユーザーはカカオで公式アカウントを友達追加するだけで新商品情報やクーポンを受け取れるようになります。
特に알림톡(アルリムトク:通知トーク)と呼ばれるKakao経由のプッシュ通知メッセージは、開封率・既読率が非常に高く、休眠ユーザーの再訪喚起に効果的です。たとえば、サイトで商品をカートに入れたまま離脱したユーザーに対し、一定時間後に「カートに商品が残っています」とカカオでリマインド通知を送ることで、購入完了を促すことができます。
またKakaoチャネル上でカスタマーサポート対応を行い、そのままチャット内で注文を受け付ける「チャットコマース」の形態も登場しています。ユーザーにとっては慣れ親しんだカカオトーク上で完結する購入体験となるためハードルが低く、コンバージョンに繋がりやすいのが利点です。
まとめ:改善プロセスとKPIモニタリング
最後に、CVR改善のための継続的な改善プロセスとKPIモニタリング手法について確認します。韓国向けサイトUI/UXの最適化も、一度施策を打てば終わりではなく、データに基づくPDCAサイクルを回し続けることが重要です。
データ分析に基づく課題抽出
最適化の第一歩は現状把握です。Googleアナリティクス4(GA4)やヒートマップツール等を用いてユーザー行動データを収集・分析しましょう。
例えばGA4の「探索(Explore)」機能では、流入経路ごとのCVRの差異を可視化できます。もし特定の流入チャネルだけ極端にCVRが低い場合、そのチャネル向けのLP改善や投資配分の見直しによって効率を高めることが可能です。
またサイト内の行動フローを把握するには、GA4の「目標到達プロセス」レポートやヒートマップ解析が有効です。ヒートマップではユーザーがどの箇所で離脱・滞留しているか直感的に掴めます。
ヒートマップツールでターゲットユーザーの細かな行動パターンを把握し、問題点の仮説を立てたうえで改善施策を洗い出すことで、闇雲な改修ではなくインパクトの大きいポイントに資源を集中できます。
改善施策の実行とA/Bテスト
抽出した課題に対して具体的なUI/UX改善施策を講じますが、効果検証のためにA/Bテストを積極的に活用しましょう。仮説に基づいたデザイン改善案やコンテンツ変更案が複数ある場合、それぞれを一部ユーザーにランダムに提示し、CVRやクリック率の差異を統計的に評価します。
近年Googleオプティマイズのサービス終了に伴いフリーのA/Bテスト環境が減りましたが、代替としてGA4と連携可能な有償ツールがいくつか登場しています。代表的なものに「AB Tasty」「VWO(Visual Website Optimizer)」「Optimizely」などがあり、いずれもGA4イベントと連動してテスト結果を計測できます。
KPIモニタリングと継続的な調整
CVR改善は継続的なプロセスであり、定期的なKPIモニタリングと施策の微調整が欠かせません。主要KPIであるCVRそのものはもちろん、関連指標(クリック率、直帰率、離脱率、平均閲覧時間、LTV等)もあわせて追跡し、改善の手応えを多角的に評価します。
現在ユニバーサルアナリティクス(UA)は計測を終了しています(2024年7月1日で処理停止→2025年7月でUI提供終了)。移行先のGA4ではイベントベースの新たな指標体系となっているため、KPIの再定義やトラッキング設定の見直しも必要でしょう。
たとえば「商品詳細ページ→カート追加→購入完了」のようなファネルイベントをGA4で正しく計測設定し、各ステップのCVR(遷移率)をモニタリングすることでボトルネックをいち早く検知できます。即効性のある改善を重ねつつGA4でユーザー行動を精緻に追跡しPDCAを回すことが、デジタルマーケティング戦略の肝となります。
社内体制としても定期的なレポーティングと改善会議の場を設け、マーケティング・開発・デザイン担当が一体となってKPI達成に向けた取り組みを行うことが重要です。各種ツール活用とチームの協働により、ユーザー視点に立った継続的なサイト改善を遂行しましょう。
以上、韓国向けサイトのUI/UX最適化チェックリストとして、ファーストビューから決済・フォーム、モバイル・SNS施策、そして改善プロセスまで包括的に解説しました。
韓国ユーザーの行動データや文化的特性を踏まえてサイトをローカライズすれば、CVRの劇的な改善も十分に可能です。ぜひ本記事のチェックリストを参考に、自社サイトで優先すべき改善ポイントを洗い出し、テストと検証を重ねてみてください。
韓国市場でのコンバージョン最大化に向けた取り組みが、貴社のビジネス拡大につながることを期待しています。
参照ソース
- 韓国EC市場規模調査 – Stripe
- 韓国越境ECの勝ち筋と市場規模 – The Digital X
- 韓国のモバイル決済市場 – Mordor Intelligence
- 韓国のキャッシュレス決済 – Bizlab.sg
- カカオトーク利用率調査 – KBS World
- 韓国EC市場の基礎知識 – ECACT
- 韓国モール型ECサイトUI/UX – 株式会社トライム
- CVR改善方法 – Repro